「女の子だから」という言葉が与える影響
2024年3月に発行した調査報告書の一部を抜粋してご紹介します。
はじめに
私たちの価値観や認識は、意識する・しないに関わらず、さまざまなものから構成されています。子どもたちは、生活の中心となる家庭や学校から、ジェンダーに関する価値観や規範を学び取っていきますが、残念ながら私たちの周りにはまだまだ変えていかなければならない「女の子だから」という無意識の思い込み(アンコンシャスバイアス)があります。
ガールスカウト日本連盟は2019年からさまざま年代を対象に、ジェンダーの意識に関する調査を継続しておこなっています。今回の調査は、過去に高校生年代を対象とした調査の結果と比較し、女子中高生が経験する「ジェンダーに基づく差別や暴力」の意識から少女たちが安心して過ごせる社会になっているのか、現状の把握と変化を検証しようと考えました。併せてガールガイド・イギリス連盟がおこなった同様の調査の結果を用い、海外と比較することで日本の女子中高生の現状を客観的に把握することも試みました。また、今回はコロナ禍に関する調査項目を加え、社会の変化やパンデミックの不安が少女たちにどのような影響を及ぼしたのか海外比較を交えて検証しました。
2022年3月8日国際女性デーに、内閣総理大臣は「我が国の現状は、ジェンダーギャップ指数が世界第120位であることに表れているように、諸外国に比べて大変立ち遅れていると言わざるを得ません。こうした現状の背景には、男女間の賃金格差の存在や固定的な性別役割意識など、構造的な問題があると考えられます」とメッセージ(1)を出しました。
近年、女性が働くことは当たり前になっており、新生活様式でリモートワークの導入が増えるなど働き方も多様になっています。しかし、いまだに男女の賃金格差があるのが現状です。令和4年賃金構造基本統計調査(2)の結果によると、一般労働者の男性を100としたときに、女性の賃金は75.7でした。コロナ禍においては、雇用打ち切りや無償ケア労働の増加により、働きたくても働けない状況に陥る女性もいました(3)。雇用の面ばかりではなく、女性へのDV の増加など、少女たちも少なからず影響を受けています。NHKが2022年におこなった調査(4)では多くの中高生がストレスや将来への不安を感じていることがわかりました。コロナ禍に少女たちは、どんな期待や不安を抱いていたのでしょうか。明るい未来は描けていたのでしょうか。
「すべての少女と女性が自分らしく生きられる社会」を目指し、一人ひとりがジェンダー平等について自分事として捉え、小さなことからでも行動していくことが重要です。小さな力が集まれば大きな力となり、確実に変化はおこると思っています。
調査の概要と本報告書について
ジェンダーに関する女子中高生の声を把握し、現在の日本の状況を知ることを目的として調査を実施しました。主に以下の項目について広く社会に伝えるために本報告書にまとめます。
- 学校生活の中で感じていること
- 日常生活にある差別や暴力
- カラダについての不安を相談できるか
- コロナ禍が与える影響
ガールスカウト日本連盟の中高生年代の会員と一般の女子中高生を対象にウェブ上でアンケートをおこない、得られた回答を集計・分析し、調査結果としてまとめました。分析するにあたり、ガールスカウトが過去に実施した調査のデータやイギリスの調査データを用いて意識の変化や違いを見るなど、ガールスカウトのリソースを生かした比較も試みました。
アンケート集計後に、全国から中学生・高校生年代のガールスカウト10人がオンラインで集まり、調査の結果について意見交換をしながら身の回りで起きている現状を共有する機会を持ちました。そこで出た意見も本報告書に収録しています。
中学生を対象としたジェンダーに関する意識調査は数少ないため、今回は対象を女子中学生にも広げました。少女たちがアンケートに回答することにより、自分の身の回りに起きている違和感に気付き、学びを深めたり行動に移したりするきっかけとなるかもしれません。
少女たちの声は社会を写す鏡です。彼女たちの声一つひとつと、その声が生み出された社会のしくみや価値観の両面に注目すると、ジェンダー問題の構造に対する理解が進むのではないでしょうか。ガールスカウトとしても女子中高生の声を把握することで、ここで得られたデータや分析結果を教育に生かし、よりよい社会の実現を目指した活動に取り組みながら社会へ発信していきます。
アイコン説明
調査概要
- 調査対象:全国の中学生・高校生年代の女子
- 調査期間:2023年11月14日~ 12月17日
- 調査方法:インターネット回答 全36問(小項目合計62問:選択44問、記述18問)
- 回答数:1,563人
- 中学生 764人(ガールスカウト会員 385・会員外 379、男女共学 709・女子校 54)
- 高校生 799人(ガールスカウト会員 326・会員外 473、男女共学 619・女子校 177)
比較分析対象資料
『高校生が感じるジェンダーバイアス「ジェンダー」に関する女子高校生調査報告書 2019』
『「ジェンダー」に関する女子高校生調査報告書 2020 ~声をつなぐ~』
『「ジェンダー」に関する女子高校生調査報告書 2021 自分のからだ』
『少女の意識調査 2022(Girls’ Attitudes Survey)』
オンラインミーティングの実施
参加者:ガールスカウトの中学生 3人(静岡県、京都府、奈良県)
高校生 7人(群馬県、埼玉県、福井県、愛知県) 計 10人
1 学校生活の中で感じていること
学校では、伝える側に深い意図がなくても、生徒はさまざまな価値観や考え方を受け取っています。教師のちょっとした声のかけ方や接し方、教科書の挿絵、生徒同士の会話に至るまで、無意識のジェンダー規範が存在することを「隠れたカリキュラム」といい、その影響は深刻です。
ここでは教師の言葉や対応についての声のほか、友人や教師など多くの関わりを持ちながら過ごす学校生活において、女子中高生が感じている声を集めました。
1-1 学校では平等なのか?
Q: 学校の先生は、女子と男子に平等に接していると思いますか

そう思わない=まったくそう思わない、あまりそう思わないの合計
※[属性:女子校]の回答を除外しています。
2023年の高校生と比較すると、「そう思う」と回答している人が74%から63%に減少、「そう思わない」が23%から32%に増加しています。このことから、学校の先生の接し方に対して、ジェンダー平等の視点で見ることのできる高校生が増えていることが推察されます。その背景には、学習の中でジェンダー平等や包括的性教育等の機会が増えていることが挙げられると考えます。

「そう思う」
- 男子にも女子にも「ダメなことはダメ、いいことはいい」というごく普通な接し方をしていると思うから。(中学生)
- 男か女かではなく一人の人間として見てくれているから。(高校生)
- 委員会や係などは平等に扱っていると思う。(高校生)
「そう思わない」
- 名前の呼び方。男子は下の名前か「くん」付け。女子は「さん」付けが多い。(中学生)
- 怒り方などが女子には優しく男子に厳しくしている様子がよく見られる。(中学生)
- 力仕事を男子に任せたり、誰も発言しないとき男子に当てたりする。(高校生)
- 役割の面で少し大変なことがあると、先生が男子に協力を求める学校の風潮がある。(高校生)
平等に接しているという回答の中には「区別しない先生が増えている」「役割が平等に与えられている」と感じている声が多く見られました。男女による対応の違いについては、特に高校生は進路の話に触れている回答も多く、理系でも文系でも関係なく進路を応援している先生が増えていると感じているようです。
平等ではないと感じている人の多くの意見に「怒り方・声のかけ方」、中学生は「女子にはやさしい、男子には厳しい」、高校生は「力仕事は男子に」という回答がいくつも見られました。
…続きは、全文をダウンロードしてお読みください。
概要:ジェンダーに関する女子中高生調査報告書2023
今回の調査は、対象を中学生年代に広げ、過去の調査結果やイギリス連盟の調査結果と比較をしながら、少女たちの意識や、今のこの年代の少女たちが置かれている環境についての把握を試みました。
アンケートに回答したことを機に、「女の子だから」という考えで、社会の中で無意識に差別が存在していることに気づいたという声もありました。
主なテーマ:学校生活の中で感じていること/日常生活にある差別や暴力/カラダの不安 相談できる?/日英比較 少女たちに与える影響
発行:2024年3月
定価:1,000円+税
この報告書はマイクロン財団の助成を受けて作成しました。

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