中学生・高校生を取り巻く環境が与える影響とは
2025年3月に発行した調査報告書の一部を抜粋してご紹介します。
はじめに
2023年度は女子中高生を対象に「ジェンダーに関する意識調査」を実施し、対象年代の少女とオンラインミーティングを開催しました。その際に参加した少女から「女性だから男性だからではなく、その人として見ることが大切だと思った」「男女で分けることなく、個人として尊重される社会になってほしい」「そのためには私たちだけが考えるより、男性の声も聴きそれぞれが感じていることを知りたい」という声があがりました。その声を受け、今年度は女子中学生・女子高校生に加え、男子中学生・男子高校生の声も集めました。数としては少ないかもしれませんが、新たな取り組みとして歩みを進めることができました。そして、男性もまた学校・家庭などの日常生活において感じていることがある、という結果が見えてきました。
社会を変えていきたい、変わってほしいと望んでいる中学生・高校生がいます。実際に自分にできることを考え、行動している高校生もいます。その声に耳を傾け、彼らが将来生き生きと活躍できる社会をつくるために、大人である私たちができることを一歩ずつ進めていかなくてはなりません。
「女性らしさ・男性らしさ」、これらの言葉の意味は時代や文化によって変化します。一人ひとりが性別にかかわらず、さまざまな個性や能力を持っています。固定観念にとらわれず、個人の「自分らしさ」を尊重したいものです。
今回の調査では、「隠れたカリキュラム」にスポットを当てて分析を進めました。中学生・高校生が感じていることの中には、家庭・学校などの日常生活に隠れたカリキュラムがあり、その影響を受けているのではないかと検証しました。多くの時間を過ごしている家庭や学校などで受ける何気ない言葉かけや態度が、中学生・高校生の可能性を阻むほどの影響を与えていることが分かりました。
この調査報告書が、「大人が中学生・高校生へ声をかけるときなどの態度を意識するきっかけ」となることを願っています。
調査のねらいと概要
ガールスカウト日本連盟は、2019年より継続して「ジェンダーに関する意識調査」を実施しています。主に女子高校生や大学生年代の女子を対象にしていましたが、2023年には対象を女子中学生にも広げました。2024年度はさらに対象を男子に広げ、中学生・高校生年代の女子と男子の声を集めました。本報告書は、この年代の声を把握し、日常生活で無意識に感じるジェンダーバイアスの存在について日本の現状を知るとともに、中学生・高校生たちの声を広く社会に伝えることをねらいとして作成しました。グラフや分析とともに実際の声を届けます。
報告書作成に向けて、今回は「隠れたカリキュラム」を軸に分析に取り組みました。併せて、ユネスコなどが公表した「国際セクシュアリティ教育ガイダンス」の8つのキーコンセプトに照らし、中学生・高校生の日常にある性にまつわる現状の中から、特に課題と思えるものを掲載しました。
包括的性教育は今、社会の流れの中で教育の現場に取り入れられ始めています。この教育は性をめぐるさまざまな要素を含み、生殖や性的行動におけるリスク、性に関する疾病について教えることにとどまらず、性を「権利」として捉え、人権を基盤におき、コミュニケーションやジェンダー平等、差別や暴力、社会的・文化的要因、メディアリテラシーなどを扱います。性にまつわる権利、社会状況、構造について知り、一人ひとりが主体的に意思決定や意思表明ができる社会の実現に向けて、子どもも大人も学ぶ必要があります。
中学生・高校生たちの声は社会を写す鏡です。その声一つ一つと、その声が生み出された社会の仕組みや価値観の両面に注目すると、ジェンダー問題の構造に対する理解が進むのではないでしょうか。ガールスカウトとしても、ここで得られたデーターや分析結果を教育に生かし、よりよい社会の実現を目指した活動に取り組みながら、社会に発信していきます。
【調査概要】
ガールスカウト日本連盟の会員と一般の中学生・高校生を対象に、ジェンダーに関するアンケート調査をウェブ上で実施、得られた回答を集計・分析し、調査結果としてまとめました。
その後、全国から中学生・高校生年代のガールスカウト7人がオンラインで集まり、調査の結果について意見交換をしながら身の回りで起きている現状を共有する機会を持ちました。
- 調査対象: 全国の中学生・高校生年代(12歳〜 18歳)
- 調査期間: 2024年9月27日 〜 11月24日
- 調査方法: インターネット回答 全52問(選択40問、記述12問)
- 回答数: 1,348人
中学生751人 女子522人 ※内、ガールスカウト会員277人/男子229人
高校生597人 女子498人 ※内、ガールスカウト会員263人/男子99人
参加者: 計7人ガールスカウトの中学生3人/高校生4人
隠れたカリキュラム
2024年の中学生・高校生を対象にした「ジェンダーに関する意識調査」は、日常生活にはたくさんの“隠れたカリキュラム”が存在しているのではないか? そして“隠れたカリキュラム”の存在に気付かずに生活をしている中学生・高校生が多いのではないか?と考え調査を実施しました。
調査後に対象年代の学生とオンラインミーティングを開催するにあたって、参加者にいくつか事前に質問したところ、全員が「隠れたカリキュラムという言葉を知らなかった」と回答していました。そして参加者はこのオンラインミーティングに参加後、“隠れたカリキュラム”についてさまざまな気付きがあったと言っています。
私たちが隠れたカリキュラムを自然に学んでしまう、知識や価値観、行動様式には、次のようなものがあります。
家庭生活
親の言葉遣いや態度・家事分担・家族のコミュニケーションなど
学校生活
教師の態度や言動・学校のルールや規律・教科書や教材の内容など
メディア
テレビ番組や映画・広告・SNSなど
隠れたカリキュラムは、学校だけでなく、家庭、地域社会、メディアなど、私たちの日常生活のあらゆる場面に存在します。そしてこれらの要素は、意図せずとも子どもの成長に大きな影響を与えます。
- 最初あまり事例を知らなかったけれど、終わってみたら、自分の周りにあったのに気付けていなかったのだとわかりました(女子中学生)
- あまり実感はなかったけれど、意識して考えると生活している中で結構あると思いました(女子中学生・女子高校生)
- 性別によって制限される原因になるため、良くないと考えます。以前は、男性と言えばこの職業といったイメージに対して違和感がなかったため、あまり問題視していなかったけれど、それが当たり前になっている現状は、誰かの望む行動を無意識に制限しているのだと思いました。教育関連の仕事を目指す男子の進路の選択肢から無意識に保育士が消えているのは、隠れたカリキュラムが影響しているのではないかと思います。隠れたカリキュラムに気付くことで、みんなの未来を大幅に広げることができると思いました(女子高校生)
- 隠れたカリキュラムについては知らなかったし、考えもしなかったので、みんなが考えることが大事だと思います(女子中学生)
- 年々ジェンダーに対する意識が変わってきているとはいえ、まだまだ「隠れたカリキュラム」は存在しているということを、今回のオンラインミーティングに参加して実感しました。高校では特に感じないけれど小中学校のことを思い返すと隠れたカリキュラムがたくさんあったという子もいました。私もそうです。特に小中学校では、「伝統だから」と“男子だから、女子だから”というジェンダー規範をそのままにしていることがよくあるように思います。そして、そのジェンダー規範で被害を被るのはLGBTQなどのさまざまなアイデンティティを持つ人も同じです。固定的な意識のままでは、男性も女性もそうでない人も個人の機会や自由が奪われてしまうと思います(女子高校生)
周囲の大人の何気ない一言が性別役割分担意識を生み、意図せずに子どもたちの可能性を狭めている可能性があります。そうならないために、最初の一歩は「気付く」ことです。隠れたカリキュラムの存在や影響力を認識したら、次は意識して行動することが大切です。
Chapter01|子どもたちを取り巻く環境
1-1 日常生活にある「女の子だから」「男の子だから」
日常生活を過ごしている中で、「女の子だから」「男の子だから」という理由で中学生・高校生が感じている差別は、どのような場面でどのような内容を言われ、誰からの影響を受けているのかを調査しました。
性別にかかわらず、「女の子だから」「男の子だから」という理由で何かを制限されたり、期待されたりしていると感じている中学生・高校生は一定数おり、中学生よりも高校生の方がその数は女子も男子も増えています。制限されたり、期待されたりしている相手は母親が目立っており、父や祖父母からという回答もありました。このことから、家庭環境が彼ら・彼女らに影響を与えていることがわかります。


何かをしなくてよい、といわれた女子の数字に対し、男子は低い結果となりました。しかし、何かをやらされたことに対しては男子の数字が高くなりました。
女子の「何かをしなくてよい」と言われた相手、男子の「何かをやらされた」相手ともに、先生や母親からが多い結果となりました。どちらの回答も運ぶ・重い・荷物などの力仕事に関する回答が多くみられ、女の子だから男の子だからという理由でしなくてよい、やらされるということを望んでいない中学生・高校生が多数いるということがわかりました。
不公平や不平等を感じた女子中学生は28%、女子高校生は43%、男子中学生は24%、男子高校生は37%でした。誰からそのように感じたかは先生からが多く、友達や先輩からも不公平や不平等を感じていました。しなくてよい、やらされた内容を、不公平・不平等と重ねてあげる声もありました。また、女子中学生・女子高校生からは、生理について周りの理解を得られないことに対する声もあげられました…
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概要:中学生・高校生のジェンダーに関する意識調査2024
今回の調査は、対象を男子に広げ、中学生・高校生年代の男女から声を集めました。第1部は「子どもたちを取り巻く環境」とし、日常生活に存在する無意識の性別役割意識が、中学生・高校生たちに影響を与えている現状を報告します。第2部ではイギリス連盟の調査結果より、容姿と心の健康状態について比較を試みました。
主なテーマ:日常生活にある「女の子だから」「男の子だから」/自分のからだ/学校の中のジェンダー/中学生・高校生とSNS・メディアの付き合い方 ほか
発行:2025年3月
定価:1,000円+税

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