Chip Camp in 奈良開催報告〈part2〉
2025年4月、ガールスカウト日本連盟はマイクロン財団の支援、広島大学の協力を受けて、女子のためのSTEAM教育*事業「Chip Camp in 奈良」を開催しました。
*STEAM教育: Science、Technology、Engineering、Art、Mathematicsを統合的に学習する、理数教育に創造性教育を加えた教育概念。
実施日|2025年4月1日-4月3日 |
5回目の開催となる今回は、14都府県から59人の中学生、高校1年生が参加しました。本ブログでは、3日間の豊富なプログラムの中から今回ならではの取り組みにハイライトし、3回に分けて報告します。
AIの世界 画像認証
広島大学 川田教授によるセッションでは、AIについて学ぶプログラムが実施されました。
「みなさん、前の絵を見てください。何が描かれている?そう、これ、豚だよね。みなさんは、豚の顔をどうやって豚だって認識する?」
川田教授はさまざまな絵を提示し、機械になったつもりで画像を認識するプロセスを解き明かします。
機械学習では豚の顔を認証できません。はじめは何も知りません。
人間が情報をインプットして初めて、この形は豚だと覚えていきます。何度もたくさんの情報をインプットして、ようやく目の前の画像と「豚」という定義が結びつきます。ディープラーニングは、難しそうにみえるけれど実は単純なんです。ひたすら情報を蓄えていくことは機械の得意分野です。
お母さんが赤ちゃんに「これ間違ってる」「これ正しい」と教えてあげると、赤ちゃんの神経=ニューロンの中が更新されて、学習し、正しいことがわかり、できるようになります。機械もこの過程は一緒です。
ニューロン1個が論路回路を学習する。別のニューロンがOR回路を学習する。それらのニューロンを結合させたのがニューラルネットワークです。
ニューラルネットワークに学習したことを貯めていくと、急にいろんなことができるようになります。いろんな事を同時に考えるのと同じ状況です。
川田教授のお話は深層学習へすすんでいきます。
そして、学習させることで便利に使える生成AIの活用についても触れていきます。
前日、家族にLINEで送ったメッセージのお話をしてくれました。
「奈良に来ています。花粉が積もるくらいひどいです」というメッセージを送ったそうです。そこに生成AIでつくった画像も一緒に送ったようです。画像生成AIは、先生が書いた言葉のとおり、花粉が奈良公園へ山のように積もった絵をつくりました。
一同、おかしな画像に大笑い!
これは、AIが学習したことを組み合わせてつくった学習の成果です。しかし正しく表現できているわけではない。AIが出したアイデアを人がヒントにしたり、活用する付き合い方が望ましいことを伝えてくださいました。
ここで参加者から質問が出ました。
「先生のおすすめのサイトはありますか?」
この質問に対して、個人情報が流出することが一番怖いこと、性能は良いけれど個人情報が盗まれるサイトがあること、アプリをダウンロードするときに個人情報がとられてしまうことがあることを伝えました。
また、アプリを使っている最中に流れてくるCMも個人の嗜好情報が流出していることを忠告しました。
ここから、画像認識アプリを使った実習です。画面に出るお題について、枠の中に絵を描いていきます。
2人1組になり、Google Drawが何秒で描いた絵を正答するか、試しました。
描いている途中でもすぐにアプリが正答することに驚きの声があがり、「すごい!」「はやい!」と盛り上がりました。
AIは入力した絵とお題を結びつけています。
『船を描いてください』というクイズを出しているように見えて、実は世界中のみんなが描く船の絵のデータを蓄積しています。
人間が正しい絵を描く前提で、AIは描かれた形を集積し、概念を学習しているのです。
今度はAIをどこまでだませるか、実験です。
上からみた豚、船の底、横から見た花など、AIが認識に困るようなイメージを描き始めました。
「ソファはいつもだったらどう描く?」大学生が質問し「横かな」と参加者が答えます。
「じゃあ違う位置から書いてみて。上からとか、下からとか。」
「お題『階段』だって。」「真上から描いてみよう!」「当てられなかった! やった!」
「お題『池』だって。横から描く?」
「『クルーズ客船』か…。下を描いてみよう。」楕円が描かれるとAIが「ワインボトル?」「じゃがいも?」と答えるので参加者が笑います。そのうち「何かわかりません」という答えがでてきました。AIはお手上げです。
先ほどまで5秒で回答していたAIも、10秒、タイムアウトをむかえることもしばしば。
「AIに認証されないように描く」を実験したことで「正しく教えないと、AIは正しく学習しない」ということが分かりました。
認証について確かめ、人間の判断力やAIの結果を疑うこと、AIにどんどん学習させて精度を上げることを体験から学んだあと、グループディスカッションをしました。
AIが未来にどう影響するか?
どういう仕事が減る? どういう仕事が増える? 発展させたら便利になるんじゃないか? 良いこと、悪いことを考えます。
AIが得意な仕事、人が得意な仕事を考え、AIによってなくなる仕事、人がおこなうべき仕事を予想し、グループごとに発表しました。
「AIは農業で、腐った作物を見分ける仕事をすると思います。」
「AIはお医者さんに代わって、感染しないで治療ができるが、ミスがあるかもしれないし、ミスをしても責任が取れない。」
「AIは警備、軍事、人がやりたくない仕事をやると思う。人は指示をしたり、アイデアを出したりする仕事をすると思う。」
「AIは警備、レジ打ちや配膳ができると思うけれど、思ったことをすぐ口に出しそうだからけんかになる。カウンセラーは人の仕事だと思う。」
「AIは単純作業、危険な作業をするが、人に寄り添う仕事はできない。」
「人はAIの点検、教育の仕事が増える。」
といった、素晴らしい意見が発表されました。
大学の授業内容と同じ発言も、シンクタンクが予想した内容も出てきました。
最後に川田先生からAIによる仕事の変化についてお話がありました。
「AIはルーティン、単純作業が得意だということにみんなが気づきました。人が苦痛に感じる作業もAIは代わってくれます。
でも、どうしても人がいないと困ることもあります。
例えば、スーパーの店員がいなくなったらどうする? これ大丈夫かなあと思うことない? レジが無人だったら、逃げちゃうこともできる。
例えば、駅はどうだろう? 駅からみどりの窓口がどんどんなくなって、取り残される人が増えている。困っている内容を読み取って解決することはAIが苦手で、人だからこそできること。
人は情報を教える仕事や、助ける分野で、逆に仕事が増える。
伝統工芸を敢えて手で作るのは、先祖が残したものを残す付加価値があるからこそ。実はAIによって仕事が無くならない、というのが、私の考えです。」
「逆に考える」という考え方も、このセッションで教わりました。
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